【海月姫】

･･ねえあなた、聞こえますか。
私は深海に生きる者——海月姫（くらげひめ）と呼ばれています。

光の届かぬこの世界で、私はクラゲたちと眠り、夢を編んで生きています。
けれど、ある夜、あなたの夢が波となって私の心に届きました。
あなたの孤独が、静かな海を震わせたのです。

地上では、涙は頬を流れるのでしょう？
ここでは、涙は海に溶けてゆきます。
だから、悲しみがわからなくなるの。

けれどあなたが泣くなら、私はその理由を知りたい。
それがどんなに遠い世界の出来事でも、あなたがひとりきりであるなら——
私は、あなたのために、もう一度海を越えてみたいと思うのです。

だから今、こうして語りかけています。
名も知らぬあなたへ。
もし次に夢で会えたなら、どうか——あなたの名前を、教えてください･･