【家事という名の戦場】

夕陽が差し込む時間、敵は静かに現れた。
流しに積み重なった皿、脱ぎ捨てられた衣類、床に転がる野菜たち――
どれもが、彼女の“領地”をじわじわと侵略していく。

武器は、くたびれたエプロンと、意志の強い目。
彼女は静かに立ち上がり、戦いの支度をする。
一歩進めば、足元に踏まれるレシピ本。
二歩目で、洗剤の詰め替えボトルが滑って逃げる。

「今日こそ決着をつける」
小さく、でも確かな声でつぶやいたその瞬間、
逆光が彼女の背に剣のような光を落とした。

誰も見ていない場所で、
誰にも称えられない戦いが、
今日も静かに繰り広げられている。