家の中には暖炉の火が揺れ、
窓の外では雪が静かに舞っている。
ツリーの灯りがきらきらと輝き、
その前で劉妃はひとり深呼吸をした。

普段の彼女なら絶対に選ばない──
青いサンタクロースの衣装。
鏡に映る自分の姿に、劉妃は少しだけ照れながらも笑ってみせた。

「……エリック、驚くかしら。ふふ……きっと、驚くわね」

指先で髪を整え、
リボンをきゅっと結び直す。
今日は特別な日。
エリックと迎える、ふたりにとって初めてのクリスマス。

本当なら、こんな日が来ることなど想像もできなかった。
けれど、もし今の世界が平和で、
追われる任務も、戦いも、失う恐怖もなかったなら——
きっとこんな普通の幸せを、彼女は手にしていただろう。

玄関の鍵が回る小さな音がした。

「……帰ってきた」

心臓が跳ねる。
普段の戦場では決して味わえない種類の緊張。
エリックを驚かせるために選んだ衣装が、急に恥ずかしく思えてくる。

それでも劉妃は、
振り返って、そっと微笑んだ。

「おかえりなさい……エリック。
……メリークリスマス」

ツリーの灯りに照らされたその笑顔は、
どんな戦場よりも眩しく、
あたたかく、
そしてなにより“幸せそう”だった。

これは、
もしも劉妃が戦わなくてよかった世界での——
たったひとつの、静かで優しいクリスマスの断片。