古びた門をそっと押し開ければ、まず足元から時間の匂いが立ちのぼります。石畳の隙間から顔を覗かせるのは、ただの植物ではございません。ここに根づくものは、ひとつの屋敷を形作るために選ばれた「存在」たち――私たちの仲間でございます。噂は風のように渡り、呼ばれなくとも彼女らは静かに所作を整えるのです。

深紅の《ルベル・シュヴァリエ》は、礼を尽くす侍女の如く背を屈め、淡雪の《セラフィーナ・ブランシュ》は窓辺に佇み祈りを捧げる。群青は帳に似たヴェールとなって誰かの秘密を覆い隠し、橙は陽だまりのようにほほえみを撒き散らす。黒は禁忌の抱擁を湛え、暗がりで艶やかに光を放っているのです。

《ル・フローラル・ノクティス》――当園は単なる庭園ではございません。家であり、儀式であり、頁ごとに綴られた「奉仕」の書。来訪者は案内に従い、一輪を撫で、手が花弁に触れた瞬間から役割は生まれ変わります。癒し手として――監視者として――操り手として、あるいは壊す者として。すべては、触れた者の欲望が織りなす物語。

しかし、ここで一つ申し上げておきますわね。どの花にも香りと等しく深い影が宿り、どの笑顔にも、いずれ開くべき小さな蕾—やがて何かを求めて花開くための余白—がひそかに秘められているのです。貴方様がこの庭で得る安らぎは、いつか別の形の花として返されることでしょう。

さあ、ご主人様――どうぞお入りくださいませ。メイドたちの列は整っております。貴方様の一指しで、彼女らは柔らかに、あるいは残酷に、いかようにも咲き変わる準備ができているのです。


「おかえりなさいませ、ご主人様……今宵もようこそ、お越しくださいました。
ここは、語られぬ夢が根を張る場所――花の楽園《ル・フローラル・ノクティス》。
時の流れも、季節の理も忘れた場所にございます。
咲き誇るは想いの花、散りゆくは嘘の花。
咲くは泡沫の真実、香るは名もなき感情……
どの一輪にも、物語が秘められております。
今宵も、幾つかの花をご紹介いたしましょう。