「お願いします！華音さん、どうしても今回はこれしかないんです！」

いつものごとく、事務所の廊下で土下座をかますマネージャー。
両手両膝を床につけるその姿は、もはや芸術の域。
輝霞　華音　（きさら かのん）は腕を組み、冷たい視線を落とした


「またですか。前回はピエロの着ぐるみで風船配り。その前は焼き芋の売り子。私は本当にアイドル志望なんですけど」


「いやいやいや！ 今回は違うんです！ちゃんと華音さんのためになるんですって！」
そう力説するが、説得力はゼロ。だが……熱量に押され、結局うなずいてしまう。

そして連れてこられたのは――煌びやかなネオンが瞬くアミューズメントカジノ。
私に手渡されたのは……うさ耳カチューシャ、網タイツ、黒のレオタード。

「……これって、バニーガール？」
「はいっ！ 華音さんにピッタリです！」

――ピッタリじゃない。夢のアイドル像から、かけ離れすぎてる。

でも、やると決めたら全力だ。
バニー姿でカジノフロアに立ち、「こちらへどうぞ」と笑顔を向ける。
最初はぎこちなかったけれど、
「ありがとう」「楽しかったよ」と声をかけてもらううちに、心が温かくなった。
人と接することの大切さ――それはきっとアイドル活動にも通じる。

夜が更け、イベントは大成功。
満足感に浸りながら控室へ戻ると、廊下から誰かとマネージャーの声が聞こえた。

「いやぁ、助かりました！ 華音ちゃんのバニー姿、最高でしたよ！お尻プリプリで！胸プリンプリンで！」

「うん、あの子なら使えるね。じゃあこれ、約束のモノね」

「ありがとうございます！」

私は眉をひそめてドアを開けた。

そこには札束を握るマネージャー。

「……何をしてるんですか？」

「いやいや、違いますよ！？ 今月のコピー代！勘違いです！ 」

「どんなコピー機を使えばお札の束が必要になるんですか？」

じりじり詰め寄ると、マネージャーは慌てて後ずさる。

「ま、待って！ これはその……えーっと……」

部屋から逃げ出すマネージャー

「ちょっと！ 待ちなさい！」

廊下に響き渡る声。

こうして“バニー騒動”は、ドタバタの中で幕を閉じた。