【引っ越し荷物に海があった】

引っ越しの荷ほどきは、だいたいが確認作業だ。

服、本、ケーブル、どこで使ってたか思い出せない小物。

その箱も、たぶん同じだと思っていた。

底の方から、なぜか少し湿った風が来るまでは。

箱を開けると、小さな浜辺があった。

洗濯物みたいに並ぶ家と、仕事をしている人たち。

灯台は黙って煙を出していて、特に何かを主張するわけでもない。

不思議なのに、驚くほど落ち着いていた。

「ああ、これも入れてたんだ」と思った。

昔住んでいた町とか、通い慣れた道とか、そういうものと同じ箱に。

ガムテープを切り直して、箱はそのままにした。

今日はもう、十分運んだ気がしたから。