【高架橋の下に広がる夕暮れ都市】

誰もいない時間帯を見計らって、彼はいつもここへ来る。
水面を渡る夕焼けの色と、高架橋の鉄骨が影を落とすこの場所。
都市の喧騒が背後に響く中、彼はただ波の音に耳を澄ませていた。

昔、まだ幼かった頃に、父とボートでこの下をくぐった記憶がある。
そのとき父は言った。
「この橋の下には、未来が流れてるんだよ」

子どもには意味が分からなかったが、大人になった今なら少し分かる。
橋の下には通過するだけの時間がある。
忘れられた言葉も、遠ざかった夢も、すべてがこの水面に浮かんでは消える。
けれどこの静かな場所では、不思議と心がほどけていくのだ。

彼は立ち上がり、スマホをポケットにしまうと、
再び都市の灯りの中へと歩き出した。