【雨上がりの夕焼けバス】

雨上がりのバスは、しっとりとした静けさをまとっていた。
窓に残った水滴が、バスの揺れに合わせて微かに震えている。
その向こうでは、沈みかけた夕陽が、雲の隙間から顔を覗かせていた。

オレンジと紫が溶け合う空。
それが、水滴越しのレンズを通して滲んで見える。
まるで誰かがガラスに絵の具を垂らしたみたいに。

彼はその光景を、息をひそめるようにじっと眺めていた。
いつもは無機質で退屈な帰り道が、今日は何か特別なものに思えた。
濡れたガラス、夕陽、揺れる影。
そのすべてが、たった今しか存在しない一瞬の連なりだった。

どこか遠くで、子どもが笑う声が聞こえた気がした。
窓を伝う水滴の軌跡が、まるで時間の流れのようで、
彼はふと、過ぎ去った日々のことを思い出していた。
雨が降った日の記憶、夕陽に照らされた誰かの横顔。
忘れていたはずのものが、濡れた窓に映し出される。

次の停留所が近づく。
でも、もう少しだけ、この景色の中にいたい。
そう思いながら、彼は窓に映る滲んだ夕陽に、そっと指先で触れた。
当然、その光は掴めない。
けれど、指先には確かに、まだ少し冷たいガラスの感触が残った。