【黄昏の桜小路】

夕日が山の端に沈みかけ、空を燃やすような茜色に染めた頃、古い町並みにひっそりと続く桜小路に、彼は静かに足を踏み入れた。

毎年、この季節になると、この路地にだけ時間が止まったような魔法がかかる。

石畳の上に散る桜の花びら、ほのかに香る屋台の湯気、電線の向こうに浮かぶシルエットの山。

彼は、夕暮れに染まる石畳を踏みしめながら、胸の奥に残る懐かしい気配を感じていた。

過ぎた日々の記憶は、風に舞う桜のように手のひらからこぼれていく。

それでも、この道を歩くたびに、新しい季節がまた始まる予感がする。

振り返ることはあっても、足取りは確かに前へと続いていた。